はむ吉(のんびり)の練習ノート

プログラミングとことばに関する話題を中心に,思いついたこと,試してみたこと,学んだことを,覚え書きを兼ねてまとめます.その際に役立った,技術書,参考書,辞書,機器などの紹介も行います.

なないろの絶版・品切れ重版未定辞典:国語系・英語系辞典七選

私が持っている主な国語系(国語辞典・成語辞典)および英語系(英英和辞典)の紙辞書のうち,品切れ重版未定(あるいは絶版)になってしまっているものの,特徴や入手経緯について述べます.新刊書店の実店舗や,古本屋などでの辞書選びに役立つかもしれません.

はじめに

言葉の意味,用法やニュアンスといった諸側面を知りたい場合に,国語系,英語系を問わず,辞書というものは欠かせないものです.最近ではインターネットでカジュアルにこのような知識を得られるようになりましたが,信頼できる情報源として,成書としての辞書も必要であることは言うまでもありません.そのため,大型の書店に出向けばいまだに数十タイトルもの紙辞書が並んでおり,また,「おすすめ」の辞書に関する情報もブログ記事等で広く共有されています.

しかしながら,定評のある,あるいは自分に合った辞書であっても,絶版,あるいは品切れ重版未定といった形で入手困難になっていることが多々あります.最近話題になった辞書の例としては,最所フミ氏による『日英語表現辞典』『英語類義語活用辞典』が挙げられます*1.この二冊はソーシャルネットワークサービスを通じて話題となり,その有用性が広く伝わりました.しかし,すでに版元品切れとなっており,中古品の入手も困難な状態でした.もっとも,これらの辞書の場合には,反響の大きさを受けて急遽復刊されたため,今では新刊書店で容易に入手できるようになりましたが.

この記事では,上述のような,少なくとも私にとっては有用であるが,絶版あるいは品切れ重版未定のため,古本などとして入手した辞書を挙げます.このような入手困難な本を探される方の参考になればと,入手経緯についても触れます.

国語系辞典

中型国語辞典

講談社カラー版日本語大辞典』第二版 (1995)

「大辞典」と銘打っているものの,収録語数等から考えれば,分類としては中型国語辞典とすべきでしょう.版元のウェブページでは,「日本語+百科」をはじめとする 14 もの機能を備えていると謳っています.半ば百科事典となっているのは,『広辞苑』をはじめとするほかの中型国語辞典にも言えることではありますが.確かに,これ一冊で一通り賄えそうな辞書ではあります.最大の特徴は,ふんだんに取り入れられたカラーの写真・図でしょう.このおかげで,文章だけではわかりにくい事物を,一目で理解することができます.国語辞典としても,語釈がやや淡白ではありますが,最低限の機能は備えているようです.自然科学関連の用語も積極的に立項しているのがうれしいところです.ただ,なにぶん二十年以上前の辞書なので,情報の古さには注意すべきです.

私はこの辞書を,とある古本チェーン店で入手しました.古さゆえか,大きさによる売れにくさゆえか,定価をかなり下回る 1000 円程度の値がついていました.普段この店舗で購入した本はビニール袋に入れて持ち帰ることになりますが,このときばかりは何も言わずとも紙袋を用意してくださいました.私がそれまでに買った古本の中でもトップクラスの大きさでした.我ながら,よく持って帰れたものです.

何か特定の言葉を知りたいという場面にももちろん使えますが,図鑑のようにパラパラと読むのにもおすすめの辞典です.

小型国語辞典

新潮現代国語辞典』第二版 (2000)

つい最近,入手が困難になってしまった辞書です.幸せデータベース 『新潮現代国語辞典』が絶版か?増刷や改訂の予定が無いそうで、店頭在庫を購入しました。 によれば,出版社に問い合わせたところ,品切れであり,増刷や改訂の予定はないとの回答を得たとのことです.特徴についてはながさわさんの国語辞書の購入の手引き 市販15種徹底比較【1種追加】 - 四次元ことばブログにて詳しく述べられていますが,文学作品から採った用例や,漢語や和語の区別が挙げられます.また,編集方針として「古語・百科項目は原則として収めない」とあるように,「夏目漱石」のような人名項目はほとんどないうえ,「洛中」のような地域性の高い語も載せていません.ただ,固有名詞でなければ,自然科学系を含む専門用語も豊富に立項されています.ビニールのカバーがついていないからかもしれませんが,個人的には特に手になじむ小型国語辞典のひとつです.

私はこの辞書を,とある大型新刊書店で入手しました.Amazon などのオンライン書店で新本が軒並み入手不可になっているという異変に気付き,慌てて実店舗に馳せ参じたのでした.それから数か月にわたり定期的に古本屋を訪れていますが,いまだにこの辞書を見かけていないことから,この判断は正しかったと考えています.このように,オンライン書店では入手困難でも,実店舗の棚にはまだ新本が残っているという事例はままあります.

明治書院『精選国語辞典』新訂版 (1998)

高校生程度を主たる対象としているようですが,一般でも十分通用する小型国語辞典です.国語の教科書・参考書に定評のある出版社が手掛けただけあって,非常に教育的な辞書です.別冊として,辞書の引き方をテスト形式で解説する冊子がついており,付属のはがきでテストの答えを送れば,記念品がプレゼントされるとの記述がありました*2.また,ほかの辞書の語釈では,一見平易な漢字であっても平仮名書きにし,読みにくいことが多いのですが,この辞書ではその代わりにルビを用いています.これで語釈を読む際のストレスが減りますし,たとえ読みを知らない漢字でもその場で読みを学べるため,素晴らしい取り組みであると感じます.自然科学系を含め,高校の教科書にありそうな用語は一通り立項しているのもさすがです.なかなか困難かもしれませんが,私が重版や改訂を強く望む辞書の一つです.

この辞書も,とある大型新刊書店で入手しました.一見古本に思えるほど,ビニールのカバーがボロボロでしたが,中身には問題がなかったため購入しました.よく残っていたものです.

『福武国語辞典』新デザイン版 (1989)

「文章表現のための国語辞典」を謳う小型国語辞典です.その名の通り,手紙,小論文から文学作品に至る様々な文章作成に役立ちそうなコラムや付録が多数含まれているのが特徴です.類語や関連語だけではなく,和語から漢語への書き換えについても,豊富な用例とともにコラムとして掲載されています.また,付録としてさまざまな文章を書くためのヒントや,表記上のきまりごとといった内容が数十ページにわたり詳述されているのもうれしいところです.ただ,こういった利点の代償なのか,収録されている項目数は少なめであり,特にやや専門よりの用語では,ほかの小型国語辞典にあるのに当辞書には立項されていないということも時々あります.また,いかんせん古い辞書なので,最近の用法や新語については期待すべきではありません.とはいえ,何か書き物をする際には,ぜひ手元に置いておきたい辞書の一つです.

この辞書は,ある古本チェーン店で入手しました.旧版の辞書を売却した際に,そのお金で『角川新国語辞典』*3の古本とともに購入したのを覚えています.

当辞書そのものの電子版はどうやらないようですが,JLogos(無料辞書サイト)ではこれを編集した『ベネッセ国語辞典』が利用できるようです.ただ,『福武国語辞典』にあるのに,『ベネッセ国語辞典』には見られない項目もあるようなので,注意が必要です.

成語辞典

旺文社『成語林』(1992)

いわゆる故事ことわざや慣用句だけを集めた,規模が大きめ(項目数二万弱)の辞典です.主に日本で通用しているこれらの成語を,豊富な用例や補説とともに詳述しています.特に,故事成語では,由来となった漢文古典の原文,書き下し文,訳まで記されています.また,本項目だけではなく,誤用例,落語,禅などに関する囲み記事も豊富です.別冊の「世界の名言・名句」も興味深いものです.今でも大型書店に出向けば成語辞典自体は何タイトルかありますか,これほど網羅的かつ大規模なものはあまり見かけない気がします.

この辞書も,ある古本チェーン店で入手しました.先述の『講談社カラー版日本語大辞典』と同じ店で,こちらも紙袋に入れて持ち帰りました.よほどの辞書好きだと思われているかもしれません.

英語系辞典

英英和辞典

英英和辞典とは,英語の見出し語に対し,語釈や解説が英語と日本語の両方で書かれている辞書のことです.以下で紹介する辞書は,学習英英辞典に日本語を付け加えて英英和辞典としたものです.英語をより深く学ぶには,英和辞典に加えて英英辞典が必要といわれますが,いきなり英和辞典から英英辞典へステップアップするのは難しい場合があります.そういった場合に,英英和辞典では,日本語をいわば「補助輪」として,英語のニュアンスを掴むことができます.残念ながら,オンライン書店などで新本として購入できる英英和辞典は,あろうことかどうやら皆無のようです.アプリ版も,少なくとも以下で紹介する辞典については見かけません.もし古本屋などでこれらの辞典を見つけたら,とりあえず確保すべきなのかもしれません.

増進会出版社『ワードパワー英英和辞典』(2002)

文字通り,Oxford Wordpower Dictionary (2nd ed., 2000) を下敷きにして作られた英英和辞典です.四万弱の見出し語に対し,限定された基本語彙 2500 語を用いた英語による解説と,それをすべて日本語に訳した記述が付されています.このことから,英語の解説だけではわからない単語などがあり理解が正しいか不安でも,後に続く日本語の解説を「答え合わせ」のように使えるという特徴があります.ただ,この懇切丁寧な日本語訳は,日本語ばかり読んで英語が目に入らないという問題も引き起こしうるので,注意が必要です.また,このような性質上やむを得ないのでしょうが,見出し語は少ないため,やや高度な単語になると立項されていないこともままあります.ただ,基本的な言葉のニュアンスをしっかり把握するうえでは,非常に有意義な辞書であるといえます.

この本も,古本チェーン店で入手しました.志村史夫氏の『理科系のための英語力強化法』を通じて存在を知り,数年前から探していて,ようやくこの辞書を見つけ,何とも言えないうれしさがあったのを覚えています.

小学館ケンブリッジ英英和辞典』(2004)

こちらは Cambridge Learner's Dictionary (2nd ed.) に基づいています.やはり,見出し語は三万五千程度と少なめで,基本的な語の理解を主目的としています.先述の『ワードパワー英英和辞典』とは異なり,英語の解説を一字一句和訳することはせず,重要な個所に絞って日本語の解説を加えています.一見不親切ですが,日本語に頼りきりになる危険性を軽減するという利点もあります.また,単語帳代わりにも使えます.何よりうれしいのは,原著の英英辞典の電子版が CD として付属することです.Windows 10 でも,原因不明のエラーは出るものの,とりあえず最低限の機能は使えます.

この本は,ある新刊書店で,先述の『精選国語辞典』とともに入手しました.そこそこ古い本ですが,新本として手に入るとは思いませんでした.古本屋でもあまり見かけない本なので,これを逃せば確保できなかったおそれがあります.それにしても,書店に入るや否や,辞書の棚に直行し,すぐさま二冊を小脇に抱えてカウンターへ向かう姿は,はたから見ればやや異様だったかもしれません.

おわりに

私の手元にある,絶版あるいは品切れ重版未定となった国語辞典,成語辞典と英英和辞典について,その入手の経緯とともに紹介しました.これらの辞書の特徴を活かしつつ,今後も本業や趣味でどんどん利用していきたいと考えています.このほかにも「自慢」したい品切れの辞書はいくつかありますが,それはまたの機会にまとめることとします.入手の難しいものばかりですが,古本屋などでの辞書選びの参考になればと存じます.また,昨今の紙辞書離れや,出版不況といった状況からして難しいところはあるかもしれませんが,これらの辞書が今後復刊,あるいは改訂されることを願います.

参考にした記事

日本語および英語の辞典を,比較表によりわかりやすく分類されている記事です.本稿で述べた大型/中型/小型国語辞典の別はこれに準じます.国語,英和,英英辞典だけではなく,類語辞典や連語辞典などの各種辞典についても触れられており,これらの辞書の世界を概観するうえで非常に役立ちます.私は当初英語の辞書を探していた際にこの記事に出会い,辞書蒐集への第一歩を踏み出したのでした.

fngsw.hatenablog.com

新刊書店で手に入る小型国語辞典の特徴を,おすすめ度とともにわかりやすく説明されている記事です.私が国語辞典を蒐集し始めた最大のきっかけです.この記事のおかげで,一口に国語辞典といっても得意分野や持ち味はそれぞれであり,一つではなく複数の国語辞典をもつことが望ましいということを認識することができました.学習辞典や品切れ重版未定の辞典についても簡単に触れられており,本稿で紹介した国語辞典の一部についても記述があります.

*1:これらについては復刊後購入しました.また別の記事などで触れたいと思います.

*2:残念ながら,私の買ったものからははがきが失われていました.はがきがあったところで,まだこの企画をやっているとは限りませんが.

*3:こちらも刊行年のかなり古い辞典ですが,なんといまだにオンライン書店でも普通に新本を入手できます.