はむ吉(のんびり)の練習ノート

プログラミングとことばに関する話題を中心に,思いついたこと,試してみたこと,学んだことを,覚え書きを兼ねてまとめます.その際に役立った,技術書,参考書,辞書,機器などの紹介も行います.

一般向け国語辞書に「恵方巻き」がいつごろ載ったか

今日は節分であった.出来合いのものではあるが,私も恵方巻きを口にした.さて,諸説はあるが*1,この風習は近年の大阪に発祥のものらしく,全国的に普及したのは最近のことのようだ.長い伝統があるものではないにせよ,関西になじみの深い私にとっては昔から接してきた風習なので,これを知って驚いた記憶がある.一般向け国語辞書についても,最近になって「恵方巻き」を立項するものが出てきたという感覚がある.これが妥当かについて,もう少し辞書を真面目に引いて,調べてみることにした.


やることといえば単純で,自分がアクセスできる国語辞書をかたっぱしから引いて,「恵方巻(き)」があるかを確認することである.まずは,大型および中型の国語辞書である.大型の『日本国語大辞典』第二版 (2000-2002) や,これに基づく『精選版日本国語大辞典』(2006) には「恵方巻き」がなかった.一方で,中型国語辞書に移ると,さすがに『講談社カラー版日本語大辞典』第二版 (1995) にはなかったが,以下のように,現行の中型国語辞書三種にはいずれも立項されている.

  • 広辞苑』第七版 (2018):「節分の日に、その年の恵方を向いて食う巻きずし」とある.一つ前の,同第六版 (2008) も同様.より古い第五版より前は,手元にないため不明である.
  • 大辞林 4.0』(2019):iOS 用「辞書 by 物書堂」のコンテンツとして購入したもの.「節分に食べると縁起が良いとされる太巻き」とし,食べる作法や,「江戸末期大坂船場に始まるという」ことにも言及する.概ね一つ前にあたるであろう,iOS 搭載の『スーパー大辞林 3.0』にもあるが,一度廃れたものの 1977 年に復活したという旨の記述が加わる.これは最新版の『大辞林 4.0』では削除されている.
  • デジタル大辞泉』:2023 年 2 月 3 日現在で,「goo 辞書」で提供されている同辞書のコンテンツには「恵方巻」が含まれる.「心の内に願い事をしながら黙って食べると願い事がかなう」とされていることや,2000 年頃から全国に広まったことなどに言及するのが特徴的である.一部の記述が異なるが,少し前の,2013 年製の電子辞書専用機 XD-N9800 に搭載の同コンテンツや,より古い,2008 年製の XD-GP6900 に搭載の『デジタル大辞泉』(おそらく初版相当)にも,同様の内容で「恵方巻」がある.これより前については不明である.

一方で,小型国語辞書についてはどうだろうか.私が旧版と最新版のいずれをも所有しているものに限るが,概ね以下のような状況である.

  • 三省堂国語辞典』第八版 (2021):一つ前の第七版 (2014) と,ほぼ同内容で立項している.関西発祥であることに,やはり言及している.より古い版については不明である.
  • 新明解国語辞典』第八版 (2020):立項し,縁起や食べる作法について言及している.一つ前の第七版 (2012) にはない.
  • 明鏡国語辞典』第三版 (2021):立項し,簡潔に説明している.第二版 (2011) も同様だが,初版 (2002) にはない.
  • 『新選国語辞典』第十版 (2022):立項し,大阪発祥であることにも言及する.一つ前の第九版 (2011) も同様である.それより前については不明である.

こうしてみてみると,『デジタル大辞泉』の記述を信じるならば,「恵方巻き」は2000 年ごろに全国へ広まったにもかかわらず,十年も経つか経たないかといったところで,各辞書が続々と立項するようになったことになり,なかなかの驚きである.それほど急速に,習慣として定着したということだろうか.ただ,もちろん,最近の辞書ならすべて載せているというわけでもない.たとえば,『岩波国語辞典』第八版 (2019) には,「恵方」はあっても「恵方巻き」はない.これは,編集方針によるところがあるのかもしれない.時間と体力が許せば,図書館にでも行って旧版をあさりたいところだが,なかなか難しそうだ.さて,これだけ書けば,恵方巻一本ぐらいのエネルギー*2は消費できただろうか.

*1:あまりこの言い方は使いたくないが.

*2:日常的には「カロリー」と書くところだろうが,物理量と単位を混同しているようで,あまりそうはしたくない.