「印鑑」は模様,「印章」は道具とは限らない:「印鑑」「印章」「判子」が意味するところの重なり
「印鑑」は役所などに届け出た模様(印影)で,「印章」は印影を紙につけるために,彫刻が施された道具であるという言説にときどき接する.今日も,TL でそのような主張を見かけた.そのときには,私はこれとは異なる見解のツイートとともにリツイートするにとどめた.ただ,それだけではアレなので,もう少し調べてみることにした.
後者のツイートにもあるが,「印鑑」「印章」「判子」の意味合いは重なりあっているところがある.『三省堂国語辞典』第八版は,各項目を下記の通り説明する.なお,用例やふりがなは省いた.
- 印鑑
- ①〔自分のものとして〕あらかじめ役所・銀行などに届け出た、特定の印影。②印影をおす道具。はんこ。
- 印章
- ①印影。②印影をおす道具。はんこ。(③は略)
- 判子
- ①紙におしつけて、名前の文字などをしるす道具。②「はんこ①」をおすこと。押印。捺(なつ)印。③「はんこ①」をおしたあとのしるし。印影。
これに基づき,それを表に示すと,大まかには以下のようになりそうだ.○は,その意味を含むこと,×は,その意味を含まないことをそれぞれ意味する.
印鑑 | 印章 | 判子 | |
---|---|---|---|
役所などに届け出た特定の印影 | ○ | ○ | ○? |
上記以外の印影 | × | ○ | ○ |
印影を押すための道具 | ○ | ○ | ○ |
押印,捺印するという行為 | × | × | ○ |
もちろん,あくまでも私が語釈を読み,字面から機械的に分類したものであるから,誤解しているおそれは否定できない.たとえば,「判子」については,日常で使う印影はよくても,公的機関に届けた印影に対して用いるのはちょっとミスマッチかもしれない.また,特定の辞書だけを頼みにするのでは不十分だろう.ただ,いずれにせよ,「印鑑」「印章」「判子」の意味はオーバーラップしており,冒頭の主張のように,必ずしも割り切れるものではないことは確かだろう.