はむ吉(のんびり)の練習ノート

主に(競技)プログラミングや言葉について,思いついたことや,試してみたこと,学んだことを,覚え書きを兼ねてまとめます.その際に参考になった,書籍などの紹介も行います.

くそなぞなぞの作問のためのヒント:参考図書の活用法を中心に

最近,一部の競技プログラマーを中心に,くそなぞなぞが再び注目を集めつつあります.そこで,本記事では,くそなぞなぞの作成にあたり,私が考慮に入れている手法を,辞書をはじめとする参考図書の活用という点に重きをおき,まとめておきます.

はじめに

以前記した記事で述べたように,競技プログラマー有志の間では,くそなぞなぞを楽しむ習慣があります.たいていは,Twitter 上で暇つぶしやレクリエーションとして,問題の投稿とそれに対する解答が日々行われています.最近は,それにとどまらず,「競技くそなぞなぞ」とでも呼ぶべき活動も行われています.その初期の試みとしては,2016 年に開かれた,Kuso Nazonazo Contest が挙げられます.また,最近では,くそなぞなぞ Grand Contest同 Beginner Contest が記憶に新しいといえるでしょう.特に後者では,競技プログラミングに倣って,レーティングを算出する試みもなされています.今後も,これらの動きからは目を離せません.

このような,くそなぞなぞの競技化という現状を踏まえ,競技プログラミングと同様に,解答や作問のためのノウハウを集積する試みが,いまだ少ないながらなされつつあります.たとえば,クソなぞなぞコンテストに参加する上での個人的な小手先のテクのまとめを書こうとした記事 - 怠惰の累積和では,Twitter を出題,解答および正誤判定のプラットフォームとして行われるくそなぞなぞコンテストを念頭に,解答の上で役立つ技術がまとめられています.また,拙稿のくそなぞなぞの解答と作問のための技術:すぐに試せる 8 つの方法(例題つき) - はむ吉(のんびり)の練習ノートでも,くそなぞなぞを楽しむにあたり利用できそうな手法を挙げています.しかし,いずれの記事もくそなぞなぞへの解答に重きを置いており,作問に関する技術についてはさらなる取り組みが必要であるといえます.

そこで,本記事では,以前の記事を補完する意味も込めて,一部重複する箇所もありますが,くそなぞなぞの作問にあたり,私が考慮に入れている方法について述べます*1.特に,この記事では辞書をはじめとする,参考図書の活用法に重きを置いています.くそなぞなぞはある種の言葉遊びであり,これに辞書類は大いに役立つでしょう.実際に,くそなぞなぞの競技化を受けて,この点にも着目がなされつつあるようです.たとえば,前述のくそなぞなぞ Beginner Contest 001 では,コンテスト中における辞書の使用が明示的に認められています.辞書類の利用は,新たな発想のくそなぞなぞを作成するきっかけとなるだけではなく,言語に対する感覚を研ぎ澄ませ語彙を拡げるという点で,一挙両得といえるでしょう.

基本的戦略

テーマの選定

頭がまっさらの状態から,くそなぞなぞを作り出すのは困難を極めます.そこで,ある程度のテーマや出題範囲を決めたうえで,作問に取り組むとよいでしょう.たとえば,日ごろの生活で気になった語句を書き留めておいて,それらを「転がして」くそなぞなぞを仕上げるという方法があります.また,「日本の地名」「競技プログラミング用語」「麻雀用語」など,具体的にテーマを定めておいて,対応する参考図書でめぼしい語句を探すという方法もあります.ただ,問題文中でそのテーマを明示すると,これを逆手にとった「エレファント」な解法が可能になるため,注意が必要です.たとえば,「~なアルゴリズムってな~んだ.」という問題ならば,解答者はいわゆる「蟻本」,すなわち『プログラミングコンテストチャレンジブック』を含む,アルゴリズムに関する参考書にあたることになるでしょう.想定する問題の難度も踏まえて判断しましょう.

オーディエンスの検討

先の項目とも関連しますが,ほかの情報発信と同様に,くそなぞなぞの出題においても,対象とする参加者をある程度考えておく必要があります.広く一般を対象とするのか,競技プログラマーを対象とするのか,その中でも内輪ネタが通用するような仲間を対象とするのかで,テーマの選定や,問題文中におけるその明示の度合いも変わってくるはずです.先の例でいえば,競技プログラマーを対象とする問題では,「~なアルゴリズムってな~んだ」の「アルゴリズム」はいらないかもしれません.

過去のくそなぞなぞの参照

温故知新という言葉がありますが,くそなぞなぞにもこれは通用します.以前に出題されたくそなぞなぞを振り返ることで,語彙を拡げたり,技術を学びとったりすることができるでしょう.上で挙げたコンテストの過去問を参照するだけではなく,なぞなぞに関する本を読むのもよいでしょう.私がときどき繙いているのは,『中世なぞなぞ集』です.その名の通り,日本の中世に作られたなぞなぞを,解説とともに多数載せています.時代が異なるので評価は難しいのですが,思わず膝を打つ名なぞなぞから,かなりのくそなぞなぞと言えそうなものまであり,興味深いのです.ただ,これらの過去のなぞなぞは参考にとどめ,自分の言葉でくそなぞなぞを作るべきなのは言うまでもありません.

中世なぞなぞ集 (岩波文庫 黄 130-1)

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  • 発売日: 1985/05/16
  • メディア: 文庫

小技

類義語・対義語の利用

くそなぞなぞにおける常套手段の一つと呼べるのは,それを解く鍵となる語句を,類義語や対義語で置き換えるというものです.たとえば,以下のくそなぞなぞを解いてみましょう.

言い間違いや失言ばかりする月ってな~んだ.

「言い間違い」や「失言」が鍵となっていることは見て取れるでしょうが,このままの形では二進も三進も行きません.そこで,これらの類語を探してみると,「過言」が挙げられます.この語は「かごん」あるいは「かげん」と読みますが,この場合は後者を採用するといいでしょう.この同音異義語として「下弦」があるため,「月」と合わせると「下弦の月」という正解を得られます.

このような類語を探すために役立つのは,当然ながら類語辞典です.最近では紙辞書のみならず,Web サービスや電子辞書のコンテンツとしても類語辞典が提供されているため,これを利用しない手はありません.Web 上には多くの類語辞典サービスがありますが,一つだけ挙げるならば,類語辞書 - goo辞書 がよいでしょう.これは,使い分けに関する詳しい記述などで知られている,小学館『使い方の分かる類語例解辞典新装版』に基づくものです.また,電子辞書には,大型の類語辞典である大修館書店『日本語大シソーラス*2や,小~中型の類語辞典『角川類語新辞典』がコンテンツとして搭載されていることがあります.紙の類語辞典としては,たとえば『角川類語国語辞典』が挙げられます.これは,先述の『角川類語新辞典』よりも小ぶりでありながら,収録語数などの記述内容がより一層充実しているという特長があります.私はくそなぞなぞの作問のみならず,日ごろの文章作成にも,適宜利用しています.また,もし紙の類語辞典をお持ちでなく,まずは雰囲気をつかんでみたいのならば,実用辞典になりますが,学研『ことば選び実用辞典』を手にしてみるのもよいでしょう.これは数百円程度(2020 年 3 月現在)ですが,日常の用途には堪えるもので,持ち運びも容易であるという特長があります.

類語国語辞典

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ことば選び実用辞典 (ビジネスマン辞典)

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  • 発売日: 2003/10/21
  • メディア: 新書

バリエーションとして,対義語(反対語)の利用も考えられます.これについても,種々の反対語辞典を参考にすることができます.また,多くの小型国語辞典*3にも,対義語の情報が載せられています.

なお,語句によっては,適当な類義語(あるいは対義語)が見当たらない場合があります.この場合は,国語辞典等を参考に,その語句を短い文章で置き換えるという方法もあります.ただ,語釈の引き写しは好ましくありません.引用の公正性に関する問題はもとより,電子版の国語辞典コンテンツの全文検索機能を用いた「暴力的」解法を可能にしてしまうという問題もあります.あくまでも自分の言葉で書き換えるようにすべきでしょう.

同じ読みの語の利用

ほかにくそなぞなぞでよく用いられる方法としては,鍵となる語句を,それと同じ読みの語句(同音異義語や同訓異字を含む)で置き換えるというものがあります.たとえば,先に挙げた「下弦の月」のなぞなぞでは,「過言」の読みと「下弦」のそれが同じであることが利用されています.このような語句の対を見つけるごく簡単な方法としては,PC やスマートフォンかな漢字変換システムを利用するというものが挙げられます.この例では,「かげん」と入力すれば,システムにもよりますが,おそらく両者が変換の候補に入るでしょう.

ただ,特に PC のかな漢字変換システムの場合には,候補に固有名詞や,一般名詞でも使用頻度のごく低いものが含まれるという問題があります.そのような語をくそなぞなぞの鍵として選択した場合,正答が極端に難しくなる虞があります.これを避けるには,小型国語辞典を引くとよいでしょう.『広辞苑』などの中型国語辞典とは異なり,小型国語辞典には主に日常等でよく使われる語が掲載されているため,その語が広く通用するかを推し量るある種のバロメータになります.小型国語辞典を一つ挙げるなら,『旺文社国語辞典』でしょうか.この辞典は,いわゆる百科語(人名,地名,専門語など)も幅広く掲載するほか,類義語,対義語,連語(後述)に関する情報も豊富であるなどといった特長があります.通常版に加え,持ち運びに便利な小型版もあるのがうれしいところです.この辞典については,以下の記事でも詳述しています.

hamukichi.hatenablog.jp

旺文社国語辞典 第十一版

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  • 発売日: 2013/10/15
  • メディア: 単行本
旺文社国語辞典 第十一版 小型版

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  • 発売日: 2013/11/13
  • メディア: 単行本

成句や連語の利用

ことわざ,慣用句,故事成語を中心とする,成句(決まり切った言い回し)も,作問のヒントになるかもしれません.たとえば,一月往ぬる二月逃げる三月去るという言い回しからは,「犬と猿の間にある月ってな~んだ.」というくそなぞなぞができます*4.このような言い回しは,ことわざ辞典等で見つかりますが,小型国語辞典を使用することもできます.小型国語辞典にはよく使われる言い回しを中心に記載されているはずなので,むしろその方がいいかもしれません.その場合におすすめの紙辞書は,『現代国語例解辞典』です.この辞典には類語に関する詳しい記述や,コーパスを用いた分析などの特長があるのですが,そのほかに特筆すべきは,「追い込み」や,「―」記号による省略が少ないということです.たとえば,「犬も歩けば棒に当たる」を見てみましょう.先述の『旺文社国語辞典』第十一版では,この言い回しは「犬」の項目に付随し,「―も歩けば棒に当たる」と,「―」による省略がある上,ほかの「犬」から始まる語句や言い回しとは,行を変えずに続けて記載されています.ところが,『現代国語例解辞典』第五版では,「犬も歩けば棒に当たる」という省略のない表記で,「犬」の項目とは行を変えて記されています.このような特長から,紙面を一瞥すれば,すぐに成句の項目を探せます.

現代国語例解辞典〔第5版〕

現代国語例解辞典〔第5版〕

  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 単行本

また,成句ほど決まりきってはいないものの,ある程度確立した語と語の自然な連なりがあり,これを連語 (collocation) と呼びます.たとえば,「計画を」には「立てる」が,「日程を」には「組む」がしっくりとくるでしょう.これらも,何らかのヒントとなるでしょう.このような連語を調べるための辞典としては,『てにをは辞典』が挙げられます.この辞典は,語釈やその他の補足的記述を排して,文学作品をはじめとする実例に則して,ひたすら連語を集めた辞典です.特に,連語が多い語の項目を見ると,まるで何かの詩のような趣すらあります.私は座右に置き,様々な文書作成に利用しています.

てにをは辞典

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  • 発売日: 2010/08/24
  • メディア: 単行本

英語へ/からの置き換え

くそなぞなぞの鍵となる語句を,日本語から英語へ,あるいは英語から日本語へ置き換えるのも有効でしょう.たとえば,次のくそなぞなぞを考えてみましょう.

植物の主成分なのに,牛肉や豚肉の一部を売りつけるものってな〜んだ.

この答えは「セルロース」ですが,「売る」と sell の入れ替えがポイントとなっています.このように,日英間の置き換えは,くそなぞなぞでときどき見られます.

この方法をとる際に有効なのは,やはり英和・和英辞典です.この種の辞典は様々な媒体で利用できますが,Web で利用できるものの一つとして goo辞書 英和辞典・和英辞典 があります.これは,『プログレッシブ英和中辞典』第 5 版および『プログレッシブ和英中辞典』第 4 版に基づきます.前者には語句のレベルに関する記述があるため,これを利用すれば,あまりに難解な語を鍵にしてしまうことは避けられそうです.

仕上げ

ほかの情報発信と同様に,作成したくそなぞなぞを公開する前に,誤字や脱字,それに語句の使い方に誤りがないか一通り点検しておきましょう.特に後者は,くそなぞなぞの正当性に関わるため,注意が必要です.たとえば,一般に通用するものとは異なる意味で,語句をくそなぞなぞの鍵として用いた場合,ほかの参加者からすれば解けないくそなぞなぞになってしまうかもしれません.事前に,小型国語辞典等で調べておくと万全です.ただ,矛盾するようですが,これらの誤謬を躍起になって探す必要はありません.あくまでもくそなぞなぞは娯楽であり,試験や検定ではありません.たとえ誤謬により疑義が生じても,結局は許されるでしょうし,言葉を学ぶよい機会になったと考えればよいのです.

おわりに

ここまで,くそなぞなぞの作成に寄与しそうな手法や考え方を,全般的なものから細かいものまで挙げてきました.ただ,繰り返しになりますが,これらの技術よりも大切なのは,くそなぞなぞを楽しむことです.あくまでも,くそなぞなぞは娯楽です.解答者を楽しませるだけではなく,作問者も一連の過程を楽しめるのが最善です.上記の技術は,この大前提を踏まえたうえで活用すべきでしょう.この記事が,くそなぞなぞ作問の一助となるとともに,辞書類に対する関心を高めるきっかけとなれば,幸いです.

*1:なお,私は思い立ったときにくそなぞなぞの作問を進めており,適時 Twitter に投稿しています.現時点で,出題済みを含め 140 問ほどに上ります.各種コンテストに関しては,私も出題側への参加を表明していましたが,諸般の事情により取り下げたうえ,くそなぞなぞを主題とする SNS からも脱退してしまいました.その節は,申し訳ありませんでした.

*2:PC やスマートフォン用のアプリとしても提供されています.後述の『角川類語新辞典』も同様です.

*3:概ね 6-10 万語を収録した国語辞典です.『旺文社国語辞典』『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』あたりが有名でしょうか.

*4:ただ,この言い回しの知名度は不明です.